大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和58年(わ)660号 判決 1985年10月25日

本店所在地

京都府城陽市大字市辺小字南垣内五五番地

商号

泉工業株式会社

右代表者代表取締役

福永倭文郎

本籍

京都市山科区竹鼻扇町二九番三〇番三一番合地

住居

京都府城陽市大字市辺小字南垣内七一番地の三

会社役員

福永倭文郎

昭和七年二月七日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件につき当裁判所は検察官山田廸弘出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告会社泉工業株式会社を罰金三五〇〇万円に、被告人福永倭文郎を懲役一年四月にそれぞれ処する。

被告人福永倭文郎に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告会社及び被告人の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社泉工業株式会社は、京都府城陽市大字市辺小字南垣内五五番地に本店を置き、金銀箔糸の製造、加工、販売業を営むもの、被告人福永倭文郎は、被告会社の代表取締役として業務全般を統括掌理しているものであるが、被告人福永倭文郎において被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て

第一  昭和五四年五月一日から同五五年四月三〇日までの事業年度における被告会社の所得金額は三、八五四万四、一四一円で、これに対する法人税額は一、四五七万七、六〇〇円であるにもかかわらず、公表計理上、売上の一部を除外するなどし、これによって得た資金を仮名の定期預金として留保するなどの行為により、その所得の全額を秘匿した上、同五五年七月一日、京都府宇治市大久保町井の尻六〇番地所在の所轄宇治税務署長に対し、所得金額はなく納付すべき法人税はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同事業年度の法人税額一、四五七万七、六〇〇円を免れ

第二  同五五年五月一日から同五六年四月三〇日までの事業年度における被告会社の所得金額は九、六四二万七、九九四円で、これに対する法人税額は三、九四八万九、六〇〇円であるのにもかかわらず、右同様の行為により、その所得金額のうち、八、九四八万六一七円を秘匿した上、同五六年七月一日、同税務署において、同税務署長に対し、所得金額は六九四万七、三七七円で、これに対する法人税額は二〇三万四、四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同事業年度の正規の法人税額三、九四八万九、六〇〇円との差額三、七四五万五、二〇〇円を免れ

第三  同五六年五月一日から同五七年四月三〇日までの事業年度における被告会社の所得金額は四億六八七万八、三九七円で、これに対する法人税額は一億六、九五三万五、三〇〇円であるにもかかわらず、公表経理上、売上の一部を除外したり、架空仕入を計上するなどし、これによって得た資金を仮名の定期預金等として留保するなどの行為により、その所得金額のうち三億九三一万八、八一八円を秘匿した上、同五七年七月二日、同税務署において、同税務署長に対し、所得金額は九、七五五万九、五七九円で、これに対する法人税額は三、九六二万八、九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同事業年度の正規の法人税額一億六、九五三万五、三〇〇円との差額一億二、九九〇万六、四〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示各事実全部につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(検第167ないし170号))

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第153、154、156ないし163、165、166号)

一  第三回及び第四回公判調書中証人北山繁則の供述記載

一  第五回公判調書中証人大橋常三、同全聖柱の各供述記載

一  第六回及び第七回公判調書中証人中光正治の供述記載

一  第七回及び第八回公判調書中証人海老重信の供述記載

一  第八回公判調書中証人宮川昇、同木村文男の各供述記載

一  福永和子(検第51号)、宇野静子(検第84、85号)の検察官に対する各供述調書

一  福永和子(検第48、50号)、山本正子(検第68号)、野田正広(検第70号)、万膳英明(検第71号)、中野清(検第72号)、見ノ木真二(検第73号)、井上雄介(検第75号)、塩見正治(検第76号)、山森洋明(検第78号)、宇野静子(検第83号)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(検第12ないし26、43、44号)

一  竹原宏(検第108ないし116号)、守村健治(検第117ないし119号)、和田明(検第120号)、松田徹司(検第121、124号)野口和雄(検第122号)、松本圭司(検第123号)、吉井祺之(検第127ないし129号)、三輪益三((検第130号)山元善富(検第145、146号)、千原義彦(検第147、145、150、151号)、星野秀寿(検第149号)作成の各確認書

一  大蔵事務官作成の証明書(検第9号)

一  登記官作成の法人登記簿謄本(検第10号)

一  押収してあるノート(はさみ込み書類共)四冊(昭和五九年押第九四号の7)同在庫ノート(東工場分)四冊(同号の9)、同在庫ノート(西川原工場分)三冊(同号の10)、同仕入帳二綴(同号の18)、同加工(依頼等ノート七冊(同号の19)、同雑ノート一冊(同号の20)、同外注控ノート一冊(同号の21、同在庫表二綴(同号の22)、同棚卸表等一綴(同号の23)

判示第一及び第二の各事実につき

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(検第36、38号)

一  海老重信(検第59号)、高桑貞之助(検第137号)作成の各確認書

一  押収してある請求明細綴一綴(前号押号の11)、同売上帳一綴(同号の12)

判示第一及び第三の各事実について

一  山本正子の検察官に対する供述調書(検第69号)

判示第一の事実につき

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(検第1号)

一  同作成の法人税確定申告書謄本(検第5号)

一  押収してある総勘定元帳(第五期)一綴(前同押号の1)、同請求明細書一綴(同号の16)

判示第二及び第三の各事実につき

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書(検第155号)

一  奥田博枝(検第52号)、瀬尾伯治(検第87号)の検察官に対する各供述調書

一  瀬尾伯治(検第95号)、藤森吉宣(検第96号)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(検第27、28、32、45号)

一  広川仁(検第88号)、吉川和男(検第142号)作成の各確認書

一  井上博之作成の回答書(検第103号)

一  押収してある売上帳二冊(前同号の3)、同ダイヤリー79一綴(同号の8)

判示第二の事実につき

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(検第2号)

一  同作成の法人税確定申告書謄本

一  同作成の法人税修正申告書謄本(検第7号)

一  同作成の査察官調査書(検第29ないし31、33、34号)

一  成宮孝(検第131号)、安井宗郎(検第132号)、竹原宏(検第143号)作成の各確認書

一  押収してある総勘定元帳(第6期)一綴(前同押号の2)

一  各迫務(検第100号)、河崎清二(検第101号)、玉木成彦(検第102号)作成の各回答書

一  蚊谷八郎作成の供述書(検第104号)

一  押収してある受注表等一綴(前同押号の6)、同納品書(シックロン)一冊(同号の一三)、同領収証等綴(同号の14)、同昭和五七年四月期総勘定元帳一冊(同号の17)

(補足説明)

弁護人は、被告会社の所得金額のうち、玉山商店に対する売上金額及び棚卸資産の金額につき争うので、この点について補足して説明する。

1  玉山商店に対する売上金額について

玉山商店に対する売上については昭和五五年五月一日から同五六年三月三一日までの分は売上帳(昭和五九年押第九四号の12)により、又、同五七年三月二九日から同年四月三〇日までの分は中川節子の記載した納品書(同号の13)により、その金額が明白に確定される。

同五六年四月一日から同五七年三月二八日までの間の取引については売上帳は存在しないが、被告会社の営業を担当していた大橋常三が記載した受注表(同号の6)、ノート四冊(同号の7)、ダイアリーとこれにはさみ込まれている書類(同号の8)があり、右書類によって出荷数量を把握することができ、これと取引商品の単価を積算することによって、右期間の売上金額を算出することができる。

弁護人は右大橋の記載した書類の数字が不正確であると主張し、被告人もこれに沿うかのごとき供述をする。

しかしながら、証人北山繁則(第三回、第四回)、同大橋常三(第五回)の各証言及び前掲昭和五九年押第九四号の6ないし8の書類によれば、玉山商店関係の取引は専ら被告人が担当していたのであるが、大橋は被告人の指示に基づいて玉山商店からの受注数と出荷数とを書き分けて右書類を記載していたこと、右書類が記載されている玉山商店以外の尾池、カタニ等の取引分については、国税局査察官北山において、売上帳簿と照合したところ、日付、数量、金額が売上帳簿の記載と一致していたこと、ことに、昭和五六年一〇月分の受注表の玉山商店の欄には「G一〇〇〇返品」と、返品分についても記載されていることの各事実が認められ、以上の事実を総合すれば、右書類にある出荷数は正確であると認められる(もっとも、被告人は、この時期は多忙をきわめた時期であり、右書類は正確に作成されていない旨供述するのであるが、多忙のため、大橋が記載もれをすることは考えられるとしても、出荷していないものを殊更記入することは考えられず、右書類にある出荷数は最小限度の数字として十分肯認し得るものと言うべきであって、玉山商店に対する売上金額は本件認定より多くなることはあっても、少なくなることはないと言える。)

他方、被告人の検察官に対する供述調書(検第167号)及び、証人金聖柱(第五回)の証言を総合すると昭和五六年四月から同五七年三月末までの間における、玉山商店に対する商品の売上単価に変動はなく、その単価は、ジョーテックスー金糸が二、三四〇円、ジョーテックス銀糸が二、二二〇円、ポピンが一五円であったことが認められる。

以上の事実を前提に査察官北山繁則において査察官調査書(検第23号)で集計している玉山商店に対する売上金額(昭和五六年四月期、五四二万九、四八〇円、同五七年四月期、一億二、四六七万三八五円)は正確であると認められる。

2  棚卸資産の金額について

(一)  昭和五五年四月期末、同五六年四月期末の棚卸については、右時期の実地棚卸記録はないものの、同五四年七月二〇日現在、同五五年四月一九日現在、同五六年四月二〇日現在の実地棚卸数量の記録が存在し、右記録に基づき実際の棚卸調査日と決算期末との間の売上仕入金額により補正して、同五五年四月期末、同五六年四月期末の各棚卸資産の額を確定することができる。(なお弁護人は同五三年四月期末棚卸高について疑義を述べているが、証人中光正治の証言によれば、被告人及び被告会社の専務取締役海老重信両名とも中光に対し「そのときは売上げも少なくて公表の棚卸は正当であった」旨申述したというものであって、関係証拠上正確なものと認めてよい。)

右金額の計算の詳細は証人中光の証言及び同人作成の査察官調査書(検第38号)の説くところであるが、実地棚卸調査日から期末までの材料の受払を品目別に計算する方法は品種も多く、材料の流れも外注加工を経る被告会社においては複雑困難であって妥当でなく査察官の用いたように、原価率を適用して、実地棚卸調査と決算期末との間の売上及び仕入金額に基づいて補正する計算方法をとることが合理的で、かつ、正確なものと認められる。右計算方法は単なる推測と異なり、証拠に基づく合理的な計算方法というべきであって、被告人も質問てん末書(検第102号)で自認するごとく、これ以外に期末棚卸を正確に計算する方法は考えられない。

従って、右計算によって算出された昭和五五年四月期末の棚卸資産の額一、九〇五万五、二九四円及び同五六年四月期末の棚卸資産の額一、六九六万四、六二五円は合理的で正確な数字であると言うことができ、このことは、海老重信作成の確認書(検第59号)によっても裏づけられる。

(二)  次に昭和五七年四月期末の棚卸については、棚卸実地記録が存在する。すなわち、証人海老重信、同宮川昇三、同木村文男の各証言によれば、在庫ノート(東工場分、昭和五九年押第九四号の九)、在庫ノート(西川原工場分、同号の10)、雑ノート(同号の20)、在庫表(同号の22)、棚卸表等(同号の23)は棚卸の実地記録であることが認められるが、右書類並びに証人中光正治の証言、同人作成の査察官調書(検第39号)及び海老重信作成の確認書(検第60号)によって、昭和五七年四月期末の棚卸資産の額は七、六七七万二、五四一円であることが認められる。

以上のとおりであるから、被告会社の玉山商店に対する売上金額及び棚卸資産の金額の算定に不合理な点はないものと考える。

(法令の適用)

一  罰条

1  判示第一の所為

昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条一項(被告会社については、さらに同法一六四条一項、情状により一五九条二項)

2  判示第二及び第三の所為

法人税法一五九条一項(被告会社については、さらに同法一六四条、情状により一五九条二項)

二  刑種の選択(被告人)

懲役刑選択

三  併合罪の処理

1  被告会社

刑法四五条前段、四八条二項

2  被告人

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の刑に加重)

四  刑の執行猶予(被告人)

刑法二五条一項

五  訴訟費用

刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条

(量刑理由)

本件は昭和五四年五月から昭和五七年四月までの三事業年度にわたり、合計一億八、一九三万余円もの法人税をほ脱したという事案であり、その脱税額が高額なことからいって、被告会社及び被告人の罪責は重大と言わざるを得ないが、反面、事後的に本税を全納している他、重加算税、延滞税も相当額を納めていること、本件犯行を反省し、その後会社の経理会計事務体制の整備に努力していること、被告人には前科がないこと等、被告会社及び被告人に斟酌すべき事情があるので、被告会社については、主文で述べたとおりの罰金刑に処することとし、被告人については、今回に限り、刑の執行を猶予することとする。

よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長崎裕次 裁判官 松丸伸一郎 裁判官 源孝治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例